宮崎皓司
お久しぶりです、宮崎です。最近金融業界に関する考察をする機会が増えており、今回は銀行業界におけるアジェンティックAI についてお話しできればと思います。
私は3ヶ月前にPlug and Playに戻り、現在はNY在住で東海岸パートナーシップチームのリーダーを務めています。その中で、アジェンティックAIが銀行業界にもたらすインパクトについて、非常に興味深いユースケースに出会いました。この技術は、今後の金融業界を大きく変革する可能性を秘めています。
アジェンティックAIとは何か?
「アジェンティックAI」という言葉は最近よく聞かれるようになりましたが、実際にその意味を理解している人は少ないかもしれません。
アジェンティックAIとは、AIが自律的に動作し、他のAIと協調しながらタスクを実行し、人間の介入をほとんど必要としないシステムを指します。自動運転同様にレベル別で考えることが可能かと思います。現在の最先端は、レベル3~3.5の自律性を持つ技術に相当します。
現在、市場で実用化されているアジェンティックAIはまだレベル3程度ですが、すでにその可能性の一端を垣間見ることができます。特に、プログラミングにおいてその特徴は顕著です。CursorというアプリとそのプラグインであるRoo Clineを使えば、ユーザーがAIに対して「アプリを作ってほしい」「ウェブサイトを構築してほしい」などと指示するだけで、AIがそれを自動で作成することが可能になります。
特に注目すべき点は、ユーザーがAIに対してどのアクションを自動で実行させ、どのアクションを承認制にするかを自由に設定できることです。例えば、AIを完全に自律化させたい場合、コードの修正を自動で承認したり、そのままウェブに公開したりすることも可能です。このように、アジェンティックAIは、スケール可能な自動化を実現しつつ、人間の関与を柔軟に調整できるという点で非常に強力な技術なのです。
OpenRouterによるカスタマイズ可能なLLM選択
もう一つの興味深い動向は、OpenRouterを活用することで、ユーザーが好きなLLM(大規模言語モデル)を選択できるという点です。OpenrouterはCursor/Roo Clineと提携しており、彼らのプログラミングアプリの中で手動で利用するLLMを選択することが可能です。コストや精度、スピード等を比較し、より最適なLLMを選べるようになっています。
現在、私も含め多くのユーザーが Gemini 2.0 や Claude 3.7 を活用しています。
Claude 3.7 は 全体的な性能が最も優れている ものの、処理速度が遅く、コストも高めです。
Gemini 2.0 は コストパフォーマンスに優れ、コンテキストウィンドウも広く、十分な性能を持つ ため、多くのユーザーにとって実用的な選択肢となっています。
(自動で5:30から開始して、30秒程度で結果が見えます)
OpenRouterの最も魅力的な点は、将来的にAIがタスクごとに適切なLLMを自動的に切り替える可能性があることです。
例えば、AIが ウェブサイトのUIを改善しようとする場合、画面のスクリーンショットを撮影し、それを分析した上でデザインを変更するといったプロセスが行われます。しかし、現状ではメジャーなLLMでこのタスクを実行できるのはClaudeのみ です。他の多くのLLMには 画像認識機能が搭載されていない ためです。よって、通常はGemini 2.0をコスパの意味で利用し、UI改善の部分のみClaudeを利用するような使い分けをAIが自動的に行うようになるのではないでしょうか。
このような機能は、今後 銀行業界においても重要な役割を果たす可能性が高い と考えています。(詳細は後ほど)
ちなみにDeepseekは無料ですが、スピードが遅く、返答の質が微妙なので使えたものではありません。ただ、これは3月頭の現状ですが、変化のスピードがとても速いので、来週には新しいモデルが出てきているかもしれません。
つまり、LLMは使用事例によってコモディティ化し、価値はそこに集まらないのです。
銀行こそがアジェンティックAIの中心になるべき理由
将来的には、AIがあなたのリクエストに伴い航空券を予約し、家電を購入し、保険を支払い、自動車ローンを管理することがすべて自動で行われる世界になるかもしれません。しかし、こうしたAIが実際に決済を行うためには、銀行の許可が必要です。
ここで重要なのは、銀行がすでにお金を管理しているという点です。
例えば、ユーザーが「バリ旅行を計画したい」と銀行のAIにリクエストしたとします。この時、銀行のアジェンティックAIは、適切な旅行AIパートナーを自動的に選択し、連携するべきなのです。
ユーザーが銀行AIに「旅行を手配したい」と伝える
銀行AIが、最適な旅行AIを自動で選び、提携しているプラットフォームを使い予約を実行する
決済はすべて銀行のプラットフォーム上で行われる
これこそが、銀行が持つべき本当の競争優位性です。
旅行AIやショッピングAIをゼロから開発するのは大変ですが、既存の優れたAIと連携し、銀行がエコシステムの「ハブ」として機能すれば、ユーザーにとって最もシームレスな金融体験を提供できるのです。
銀行は、AIが経済活動を自動化するための「ゲートウェイ」になる可能性があります。
このPayment railをVisaやフィンテックが行うことも考えられますが、最終的には預金を持っている銀行が判断を下す力があると私は思います。銀行が「$50までならAIが許可なしに支払いを行える」等、設定を設けることも可能です。こちらをCreditでやるよりは、Debitでやる方が(最初は)やりやすいと私は考えています。ユーザーの視点としては、AIに勝手にクレジットカードを利用されて借金に陥るより、預金を利用される方が許容されやすいのは間違いないはずです。
(この考え自体がクレカ借金にアレルギーがある日本人的見解かもしれませんが笑)
ベンチャー事例:Skyfire
PNPのエコシステムでこの領域で活動しているベンチャーにSkyfireがあります。
Skyfireは、アジェンティックAIのための完全自律型・オープン経済の実現を目指し、AIエージェントが銀行やクレジットカード、人間の介入なしにタスクを遂行できる金融インフラを提供する企業です。AIエージェントが信頼できるIDを持ち、即時決済を行い、企業や顧客が定めたルールのもとで活動し、自律的にリソースを発見・活用できる環境を構築することをミッションとしています。Skyfireはこの次世代のAI経済を支える決済基盤を開発し、従来の人間主体の商取引を超える市場の成長を支えています。
まだ初期段階で、AIが行う決済システムの法律が定まっていないので、まずはUSDC等ステーブルコインにおける支払いシステムが主流となっています。
2024年10月に、Coinbase Venturesとa16z Crypto Startup Accelerator(CSX)からの新たな戦略的資金注入により、総資金調達額は950万ドルに達している企業です。
結論:銀行はAIエコシステムの「ハブ」となるべき
アジェンティックAIの進化は、もはや単なる理論ではなく、すでに現実となりつつあります。
これからの世界では、AIが複雑なタスクを自律的に管理し、金融判断を最適化し、さらにはデジタル製品を完全に自動生成することも可能 になるでしょう。 この技術を早期に取り入れた銀行や金融機関は、確実に大きな競争優位を得ることになります。
重要なのは、銀行がこの変化にどう対応するか です。自社でAIプラットフォームを構築するのではなく、既存のAIサービスと提携し、銀行の持つ決済基盤を武器に新たなエコシステムを構築することが、最も賢い戦略になるでしょう。